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がん増殖を抑制する遺伝子(BRCA1/2)の変異によって発症する遺伝性乳がん

乳がんは、飲酒・喫煙などの生活習慣、細菌感染、遺伝子の体質などが原因で乳がん細胞の遺伝子に傷がつくことで発症します。がん細胞自体は決して珍しくなく、通常は遺伝子に備わっている自己修復機能によって正常な状態に戻りますので、がん遺伝子が増殖することはないのです。

病気とDNAの関係

しかし、遺伝子の傷が修復されないまま蓄積されてしまうと修復機能が働かなくなり、細胞の増殖プログラムが制御できなくなります。その結果が、がん細胞が異常に増殖して、最終的にがんを発症してしまうのです。

ところが、生活習慣などの環境因子に関係なく、生まれつき特定の遺伝子に変異があるため、発症リスクが高い乳がんがあります。ハリウッド女優のアンジェリーナ-・ジョリーさんが、予防的処置として両方の乳房を切除したことで有名となった「遺伝性乳がん」です。アンジーの衝撃的な告白まで、遺伝性乳がんという単語を聞いたことがなかった方がほとんどだと思いますが、欧米の乳がん患者の5〜10%を占めているとされる発症率の高いがんなのです。

「遺伝性乳がん」と混同しやすいのが、家族や血縁者に乳がんを発症した人が複数いる「家族性乳がん」です。母親や姉妹など血縁者に乳がんの発症経験がある女性がいる場合、そうでない女性に比べて2倍以上乳がんを発症しやすいことが知られています。遺伝性乳がんはリスクが更に高くなり、通常の遺伝子を持っている人に比べて乳がんを10倍以上発症しやすいとされています。

乳がんの発症と密接な関係がある遺伝子として研究が進められているのが、17番染色体にある「BRCA1」と13番染色体にある「BRCA2」です。いずれも遺伝子の傷を修復するうえで重要な役割を担っており、この部分に生まれついての異常があるため、がん細胞の増殖を制御できなくなって乳がんを発症しやすくなるとされています。この2つの遺伝子は乳がんだけでなく、卵巣がんにも関係しています。

「BRCA1」と「BRCA2」にある病的な異常は、50%の確率で子供にも遺伝するため、家族内の乳がん発症率が高くなります。先述のアンジェリーナ-・ジョリーも母親が卵巣がん、祖母と叔母も卵巣がんで亡くしているため、若くして乳房を切除することでがんの発症を予防することにしたのです。

ご自身の「BRCA1/2」に異常がないのか、家族内にがん患者がいるので将来、自分も乳がんを発症してしまうのではないかと心配な方は、遺伝子診断を行うことでリスク判定を行うことができます。検査自体は採血をおこなって、白血球から遺伝子を取り出して調べるだけですので、受検者の負担はほぼゼロです。しかし、遺伝子診断に健康保険は適用されませんし、遺伝子を分析できる医療機関は大都市の医療機関に限られています。

また、不幸にして検査結果が「陽性」だった場合、いつがんになるのか不安になって日常生活がおぼつかない、精神的なケアを行う専門家が少ないなどの問題もあります。一方、遺伝子診断で早期にリスクを把握することがきっかけとなり、乳がん検診や婦人科での検診の受診に積極的になったり、欧米のように発症前に乳房や卵巣を切除したり、タモキシフェン(抗エストロゲン薬)の服用といった予防的な処置をとることも可能になるというメリットがあります。